脂質異常症のリスク判定はどうする?
脂質異常症のリスク判定はどうする? ─ 吹田分類(スコア)の見方/20–30代は放置していい?/「太ってるのに検査異常なし」は大丈夫?
健診でコレステロールを指摘されたら、まず“リスクの大きさ”を数値で把握しましょう。日本では吹田分類(吹田スコア)を用いた10年リスク評価が広く使われ、2022年版ガイドラインでは久山町研究に基づく10年リスクも併用されます。
本記事は受診・相談のきっかけ作りを目的に、患者さん向けにやさしく解説します。
吹田分類(スコア)で何がわかる?
吹田スコア(Suita score)は、日本の都市住民データに基づき、今後10年間の冠動脈疾患(心筋梗塞・治療が必要な狭心症)発症確率を予測するツールです。評価に使う主な因子は次のとおりです(患者さん向けに簡略表記)。
- 年齢・性別
- LDL-C/HDL-C(コレステロール指標)
- 収縮期血圧(降圧薬の有無も考慮)
- 喫煙の有無
- 糖尿病の有無
- 腎機能(eGFR):慢性腎臓病(CKD)を反映
2017年版ガイドラインでは吹田スコアを用いた10年の冠動脈疾患リスクで管理区分を決め、2022年版では久山町研究(冠動脈疾患+アテローム血栓性脳梗塞)に基づく10年ASCVDリスクを採用しています。一般に10年リスクが「低:2%未満/中:2〜10%未満/高:10%以上」の層別を用い、目標LDL値を決めます(当院でも両者を併用)。
20〜30代は放置していい? ─ 答え:いいえ
- 「10年リスク」は年齢の影響が大きく、若年では低く見えがち。しかし生涯リスク(lifetime risk)は高くなりえます。
- 家族性高コレステロール血症(FH)やLp(a)高値など遺伝的リスクは若年でも無視できません。
- 喫煙・高血圧・糖尿病・肥満など他の因子との足し算で一気にハイリスク化します。
若年のうちにLDLを適正化し、生活習慣を整えることが将来の心筋梗塞・脳梗塞の予防につながります。「症状がない=安全」ではありません。
太っているのに検査異常がない…このままでいい?
検査上は一見「正常」でも、いわゆる代謝的に“健康”な肥満(MHO)は必ずしも無害ではありません。追跡研究では、将来の糖尿病・心血管イベントが増える、MHOが“代謝異常あり”へ移行しやすいなどが報告されています。特に内臓脂肪・睡眠時無呼吸・脂肪肝(NAFLD)が隠れているとリスク上昇。
- ウエスト周囲径・体重の軌跡(増え続けていないか)
- 血圧・血糖・脂質の経年変化(1回正常でも、毎年チェック)
- 肝機能・腹部エコー(脂肪肝の確認)
- 睡眠(いびき・日中の眠気→睡眠時無呼吸のスクリーニング)
結論:「太っているけど今は異常なし」でも放置せず、年1回以上のチェックと、体重・運動・食事の対策を早めに始めましょう。
初診〜精密検査の流れ(当院の評価)
- 問診・診察:家族歴(若年の心筋梗塞・脳梗塞)、喫煙、体重変化、既往、薬剤(避妊薬・ステロイド等)
- 採血:LDL/HDL/中性脂肪/ノンHDL、肝腎機能、HbA1c/空腹時血糖、必要に応じLp(a)、甲状腺、尿酸など
- 腎機能(eGFR)・尿蛋白でCKDの有無を評価(吹田スコア因子)
- 血圧評価:外来・家庭血圧/降圧治療の有無
- 動脈硬化評価:必要に応じ頸動脈エコー、心電図、ABI等
- リスク層別→目標設定:10年リスク(吹田/久山)と合併症でLDL目標を決定
受診までにできること
- 食事:飽和脂肪酸(バター・加工肉)を控え、魚・大豆・ナッツ・オリーブ油へ置換
- 間食・揚げ物の頻度を減らす(トランス脂肪酸対策)
- 運動:週150分目安の有酸素+軽い筋トレ/長時間座位を減らす
- 禁煙・節酒:喫煙はリスク加速、アルコールは中性脂肪↑
- 睡眠:睡眠不足は食欲ホルモンが乱れ、体重増に直結
よくある質問
吹田スコアと久山の違いは?
若くて数値が軽度なら様子見でOK?
太っているけど今は正常。痩せる必要は?
本記事は一般的な情報提供を目的としています。診断・治療は、年齢・家族歴・他のリスクを含めて個別に判断します。胸痛や麻痺など緊急症状がある場合は速やかに医療機関を受診してください。