ステロイド外用剤
💡 ステロイド外用剤とは?
ステロイド外用剤とは、皮膚の炎症やかゆみを抑えるために使用される塗り薬のことです。主にアトピー性皮膚炎、湿疹、皮膚炎、虫刺され、かぶれなどの治療に用いられます。
医療現場では「副腎皮質ホルモン外用剤」とも呼ばれ、炎症の原因である免疫反応をコントロールすることで赤み、腫れ、かゆみなどの症状を素早く改善します。
ステロイドには作用の強さに応じた5段階のランク(弱い〜最も強い)があり、部位や症状の程度によって使い分けることが重要です。

ステロイドというと「副作用が怖い」というイメージがあるかもしれませんが、正しく使用すれば非常に効果が高く、安全に使用できます。特に症状がつらい時には、短期間でしっかり治すことが大切です。
🧬 ステロイド外用剤の作用機序とは?
ステロイド外用剤は、皮膚の表面から浸透し、炎症を引き起こす細胞や物質の働きを抑えることで、赤み・かゆみ・腫れなどの症状を改善します。
ステロイドは細胞内に入り、核内の「グルココルチコイド受容体」と結合することで炎症性サイトカインの産生を抑制します。これにより、免疫反応をコントロールし、過剰な炎症反応を抑えるのです。
■ 皮膚への浸透の仕組み
ステロイド外用剤は、皮膚の「角層(バリア層)」を通過して、表皮や真皮に徐々に浸透します。
- 🟠 角層:ステロイドの吸収の第一関門。分子量が小さい薬剤ほど浸透しやすい。
- 🔵 表皮〜真皮:免疫細胞(リンパ球やマスト細胞)に働きかけ、炎症を鎮める。
- 🟣 皮下組織:一部は血流に乗って全身にも作用することがある。

塗る量や部位によって、吸収率が大きく異なるため、正しい使用方法がとても重要です。顔や陰部など皮膚が薄い部分は特に注意が必要です。
💊 ステロイド外用剤の強さランク分類(5段階)
ステロイド外用剤は、作用の強さに応じて以下の5段階に分類されます。この分類は、治療部位や症状の程度によって使い分けることが重要です。
🟥 ストロンゲスト(最も強い)【処方薬のみ】
一般名 | 商品名 |
---|---|
クロベタゾールプロピオン酸エステル | デルモベート® |
ジフルラゾン酢酸エステル | ジフラール®、ダイアコート® |
※市販薬にはありません。顔や陰部には使用しません。
🟥 ベリーストロング(非常に強い)【すべて処方薬】
一般名 | 商品名 |
---|---|
モメタゾンフランカルボン酸エステル | フルメタ® |
ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル | アンテベート® |
フルオシノニド | トプシム® |
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル | リンデロン®-DP |
ジフルプレドナート | マイザー® |
アムシノニド | ビスダーム® |
ジフルコルトロン吉草酸エステル | ネリゾナ®、テクスメテン® |
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン | パンデル® |
🟧 ストロング(強い)【一部に市販薬あり】
一般名 | 商品名 | 市販 |
---|---|---|
デプロドンプロピオン酸エステル | エクラー® | ✕ |
デキサメタゾンプロピオン酸エステル | メサデルム® | ✕ |
デキサメタゾン吉草酸エステル | ボアラ® | ✕ |
ベタメタゾン吉草酸エステル | リンデロン-V®、ベトネベート® | ✅ |
フルオシノロンアセトニド | フルコート® | ✅ |
※「ベトネベートN軟膏AS」「フルコートF」などは薬局で購入可能(OTC医薬品)です。
🟨 ミディアム(中等度)【一部に市販薬あり】
一般名 | 商品名 | 市販 |
---|---|---|
プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル | リドメックス | ✕ |
トリアムシノロンアセトニド | レダコート® | ✕ |
アルクロメタゾンプロピオン酸エステル | アルメタ® | ✕ |
クロベタゾン酪酸エステル | キンダベート® | ✕ |
ヒドロコルチゾン酪酸エステル | ロコイド® | ✕ |
デキサメタゾン | グリメサゾン®、オイラゾン | ✅ |
🟩 ウィーク(弱い)【市販薬に多い】
一般名 | 商品名 | 市販 |
---|---|---|
プレドニゾロン | プレドニゾロン | ✅ |
※顔や小児、陰部などの皮膚が薄い部位に使用しやすいランクです。
📌 補足:薬局で買える主なステロイド市販薬(OTC)
商品名 | 成分(強さ) | 分類 |
---|---|---|
フルコートF | フルオシノロンアセトニド + 抗菌薬 | ストロング |
ベトネベートN軟膏AS | ベタメタゾン吉草酸エステル + 抗菌薬 | ストロング |
ロコイダン軟膏 | ヒドロコルチゾン酪酸エステル | ミディアム |
プレドニゾロン軟膏 | プレドニゾロン | ウィーク |
テラ・コートリル軟膏 | ヒドロコルチゾン + オキシテトラサイクリン | ウィーク |
クロマイ-P軟膏 | プレドニゾロン + クロラムフェニコール | ウィーク |
※OTC(一般用医薬品)のステロイド外用剤は、強さがストロング以下に限られています。顔・陰部・小児にはウィークまたはミディアムが推奨されます。
🧴 ステロイド外用薬の使い方・正しい塗り方
ステロイド外用薬は皮膚の炎症やかゆみ、腫れを抑えるために用いられる塗り薬です。
正しい使用方法を守ることで、副作用のリスクを減らし、効果的に症状をコントロールできます。
■ 使用する順番(スキンケアの流れ)
- 洗浄:患部をぬるま湯で優しく洗い、しっかりと水分を拭き取ります。
- 保湿剤の使用:患部以外の乾燥部分には保湿剤を塗ります。
- ステロイド塗布:赤みやかゆみがある部分に薄く均一に塗ります。
※ 掻き壊しやジュクジュクがある場合は、軟膏タイプが適しています。
■ 使用回数と期間
赤み・かゆみが強い時期は、1日2回(朝・夜)が基本です。
症状が改善してきたら、1日1回 → 隔日 → 週2回と減らすことで、再燃を防げます。
※ 見た目がよくなっても、炎症が残っている場合があります。医師の指示に従い、急に中止せずに段階的に減量しましょう。
■ 塗る量と塗り方(FTU)
- ● 1FTU(第一関節まで出した量)で手のひら2枚分の面積に塗布できます。
- ● こすらず、なでるようにやさしく塗り広げます。
- ● 厚く塗る必要はなく、均一に塗るのがポイントです。
※ 厚塗りしても効果は増えず、副作用のリスクが高くなります。

▲ 1FTU(フィンガーチップユニット)の目安
■ 注意点・副作用に注意
- ⚠ 顔や陰部など皮膚の薄い場所には弱い薬を選び、短期間の使用に留めましょう。
- ⚠ 2週間以上連続で使う場合は医師に相談が必要です。
- 💡 かゆみが悪化したり、発赤・ニキビが出てきた場合は使用を中止し、早めに医師へ相談しましょう。
✅ ステロイド外用薬は症状をしっかり抑えるための有用な治療薬です。
正しく使えば、安全に効果を引き出すことができます。
✋ FTU(1回量の目安)とは?
FTU(フィンガーチップユニット)とは、チューブから絞り出した軟膏が大人の人差し指の第一関節分に相当する量のことです。
およそ0.5g(5mm径ノズル使用時)で、手のひら2枚分の面積に塗るのが適量とされています。

▲ 人差し指の第一関節までチューブを押し出した長さが1FTU
部位 | FTUの目安量 |
---|---|
顔全体 | 約1 FTU(手のひら2枚分) |
片腕全体 | 約3 FTU |
片脚全体 | 約6 FTU |
背中+お尻 | 約6 FTU |
(提供:マルホ株式会社|外部サイトが開きます)
✅ ステロイドは少なすぎても効果が不十分になり、多すぎれば副作用のリスクがあります。
適切なFTUを守って、安全に使用しましょう。
📍 部位によるステロイドの吸収率と薬の使い分け
ステロイド外用薬の皮膚からの吸収率は、塗布する部位によって大きく異なります。
特に皮膚の薄い部位(顔や陰部など)は吸収率が高く、副作用も出やすいため注意が必要です。部位に応じて適切な強さのステロイド薬を選ぶことが大切です。
部位 | 吸収率(目安) | 推奨される強さ |
---|---|---|
陰部・粘膜 | 約40倍(前腕比) | ウィーク~ミディアム |
顔(まぶた・頬など) | 約6~13倍 | ウィーク~ミディアム |
前腕(基準) | 1倍 | ミディアム |
手のひら・足の裏 | 約0.1~0.3倍 | ストロング~ウルトラ |
頭皮 | 約3.5倍 | ストロング(ローションが適) |
※数値はあくまで目安であり、個人差があります。
※イラスト挿入スペース
(吸収率マップ)
出典:Feldman RJ et al.,
J Invest Dermatol 1967; 48(2): 181-183
▶ PubMedリンクはこちら
✅ 部位に適したステロイドの強さを選ぶことで、治療効果を高めながら副作用を防ぐことができます。気になる症状がある場合は、自己判断せずに医師に相談しましょう。
🧴 ステロイド外用薬の使用方法と注意点
■ 使用回数の目安(1日に何回塗る?)
一般的には、1日1~2回の塗布が基本です。
症状が強い場合は1日2回(朝・夜)使用し、改善してきたら1日1回 → 隔日 → 週数回へと減らしていきます。
※ 医師の指示に従ってください。
■ どのくらいの期間使い続ける?
ステロイドは症状が出ているときに短期間でしっかり使うことが原則です。
赤みが取れても炎症が残っていることがあるため、見た目だけで判断せず、医師の指示通り継続しましょう。
※ 2週間以上の連続使用は医師の管理のもとで行いましょう。
■ 塗るタイミングとポイント
- 入浴や洗顔後など、皮膚が清潔な状態で塗布すると効果的です。
- 朝・夜など、1日2回に分けて均等に使用します。
- 保湿剤や他の塗り薬と併用する場合は、医師・薬剤師の指導を受けましょう。
■ 顔に塗る場合の注意点
- 顔は皮膚が薄く、吸収率が高いため副作用が出やすい部位です。
- ウィーク〜ミディアムクラスのステロイドが使用されます。
- 目元・口元・鼻周りには少量を薄く塗り、短期間で終了するようにしましょう。
- 使用中にニキビや赤みが悪化したら使用を中止し、医師に相談してください。
■ プロアクティブ療法とは?
「プロアクティブ療法」とは、症状が治まった後も、週に1~2回ステロイドを塗り続けて再発を防ぐ治療法です。
慢性的に症状を繰り返す方に特に有効で、炎症を“くすぶらせない”ことが目的です。
必ず医師の指導のもとで継続・中止の判断を行いましょう。
✅ ステロイド外用薬は正しく使えば安全かつ効果的な治療薬です。
自己判断せず、医師の説明をもとに適切な使い方を心がけましょう。
⚠ ステロイド外用剤の注意点と副作用
ステロイド外用薬は、炎症を抑える非常に効果的な薬ですが、使い方を誤ると副作用のリスクもあります。
安全に使用するために、以下の点に注意しましょう。
■ 使用時の注意点
- 📌 医師の指示通りの回数・量で使用してください。
- 📌 顔・首・陰部など皮膚の薄い部位は、副作用が出やすいため注意が必要です。
- 📌 広範囲や長期使用は、医師の管理のもとで行いましょう。
- 📌 自己判断で急に中止しないようにしてください(リバウンドの原因になります)。
- 📌 患部がジュクジュクしている場合は軟膏タイプを選ぶなど、剤形も医師と相談しましょう。
■ 主な副作用
- 🔸 皮膚萎縮(皮膚が薄くなる):長期使用により、皮膚がもろくなります。
- 🔸 毛細血管拡張:赤みや血管が目立つようになることがあります。
- 🔸 ニキビ・毛包炎:特に顔への使用で起こることがあります。
- 🔸 ステロイド酒さ(しゅさ)様皮膚炎:顔に繰り返し使うと、赤み・吹き出物などが現れることがあります。
- 🔸 色素脱失:一部の部位で肌の色が薄くなる場合があります。
- 🔸 リバウンド:急な中止で症状が悪化・再燃することがあります。
※ 上記の副作用が疑われる場合は、すぐに使用を中止せず、医師に相談してください。
✅ ステロイド外用薬は、医師の指導に基づき適切に使用すれば、安全で効果的な治療が可能です。
正しい知識をもって、安心して治療に取り組みましょう。
🗣️ ステロイド外用薬を使った患者さんの声・体験談
アトピー性皮膚炎のかゆみで悩んでいましたが、ステロイド軟膏を使って2〜3日でかゆみが軽減。夜も眠れるようになりました。
※これは個人の感想であり、すべての方に同様の効果があるとは限りません。
ステロイドには不安がありましたが、医師に「短期間であれば安全」と説明を受け、安心して使えました。使った部位もきれいに治りました。
※あくまで個人の体験です。
❓ よくある質問(FAQ)
原則として、症状が強い間は毎日1〜2回の使用が推奨されます。
改善してきたら使用間隔を空けたり、プロアクティブ療法に切り替える場合もあります。
必ず医師の指示に従いましょう。
通常は1〜2週間以内の短期間使用が基本です。
長期にわたる場合は医師の管理のもとで調整し、副作用を防ぎながら使用します。
顔には吸収率が高く副作用が出やすいため、弱めのステロイド(ウィーク〜ミディアム)を短期間・少量で使用するのが原則です。
必ず医師と相談の上、使用しましょう。
はい。入浴・洗顔後に保湿剤を先に使用し、その後にステロイドを塗布するのが一般的です。
メイクや日焼け止めは、薬剤がなじんでから使用してください。
※刺激の強い化粧品は避けましょう。
はい。小児でも安全に使用できるステロイドがあり、部位や年齢に応じて適切な強さの薬が処方されます。
特に顔・おむつ部位などは慎重に使用する必要があるため、必ず医師の指導を受けましょう。
適切な量・期間で使えば副作用は最小限に抑えられます。
ただし、長期間・広範囲に使用したり、自己判断で使い続けた場合は、皮膚の萎縮・毛細血管拡張・にきびなどの副作用が起こることがあります。
異常を感じた場合は、すぐに医師にご相談ください。
🕒 ステロイド外用薬はどのくらい長く使っていいの?
ステロイド外用剤は、短期間でしっかりと炎症を抑える目的で使用する薬です。
しかし、「長く使っても大丈夫なの?」「副作用は出ないの?」という疑問を持たれる方も多くいらっしゃいます。
■ 一般的な使用期間の目安
- 急性症状には、1〜2週間の集中使用が推奨されます。
- 慢性症状や再発を繰り返す場合は、医師の判断で数週間〜数ヶ月にわたり、間隔を空けて使用することもあります。
- 顔や陰部などの皮膚が薄い部位では、1週間以内の短期間使用が原則です。
※長期使用が必要な場合は、副作用のチェックをしながら医師が慎重に判断します。
■ 長期使用の副作用とその対策
ステロイドを長期間・広範囲に塗ると、副作用が出る可能性があります。
- 皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)
- 毛細血管の拡張(赤みや血管が目立つ)
- にきびや酒さ様皮膚炎
- 色素脱失(色が抜ける)
これらを防ぐために、症状が落ち着いたらプロアクティブ療法(週1〜2回の予防的使用)に切り替えることが推奨されています。
■ エビデンスに基づく見解
以下の文献では、ステロイド外用薬の長期使用の安全性や使用法について検討されています。
-
🔗
Topical Corticosteroids: A Review – NCBI (2010)
→ 適切な強さ・使用量を守る限り、長期使用でも副作用リスクは抑えられると報告。 -
🔗
UpToDate: Topical corticosteroids in clinical practice
→ プロアクティブ療法による長期的な管理と再発防止が推奨されている。
✅ ステロイドは使い方がとても大切な薬です。
長期使用が必要なときは、必ず医師と相談しながら、安全にコントロールしていきましょう。
📚 ステロイド外用薬に関するエビデンス・公的機関の情報
ステロイド外用薬は、世界中で長年使用されてきた科学的根拠に基づいた治療薬です。正しい知識を持つために、以下のような信頼性の高い情報源をご参照ください。
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🔗
日本皮膚科学会「ステロイド外用薬の正しい使い方」
ステロイドの強さ分類、使い方、部位ごとの注意点を丁寧に解説。 -
🔗
厚生労働省「医療用医薬品の適正使用に関する情報」
医師・薬剤師向けの情報も含めた、ステロイド薬全般の使用指針。 -
🔗
NHS Evidence(英国国民保健サービス)Topical Steroids
英国NHSのステロイド外用薬に関する臨床エビデンスとガイドライン。 -
🔗
UpToDate「Topical corticosteroids: Mechanism and use in clinical practice」
ステロイド外用剤の作用機序、選び方、実臨床での使い分けについて。 -
🔗
NCBI(米国国立医学図書館)”Topical Corticosteroids: A Review”
学術レビューによる詳細な薬理・副作用・臨床使用の考察。
✅ これらの情報は、医師の説明と合わせて読むことで、より安心して治療に取り組む助けになります。
👨⚕️ 医師からのコメント・監修

「ステロイド外用剤は安全な薬です。ランクがあり各部位で使い方を選ぶ必要があります
ただし、長期使用や自己判断での使用は避ける必要があります。」
当院では、部位や症状の程度、患者さまのライフスタイルをふまえて、ステロイド外用薬の種類や使用方法を慎重に選択しています。
ステロイドに対して不安を感じる方も多いため、使用上の注意点や副作用についても丁寧にご説明いたします。
0th CLINIC 日本橋 院長
日本病理学会認定 病理専門医/総合診療、救急科での診療歴10年以上
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