旅行/出張の血糖管理:
時差と機内食の実務ハンドブック
海外出張・旅行で血糖の乱高下を最小化するための、すぐ使える実務をまとめました。
本コラムは「生活実装ハウツー」に特化し、薬の詳細や病態総論は各ハブ/個別ページへリンクします(=カニバリ回避)。
1. 基本原則:乱高下を避け“見える化”する
- Time in Range(TIR)を死守:HbA1cよりも日々の幅を管理。可能ならCGMを使用。
- 「少量多頻度」+「こまめに水分」:機内/移動は脱水→高血糖の温床。糖質は分割、水分は無糖で。
- 無理に現地時間へ“即”合わせない:長距離は到着後48–72時間でゆるやかに移行。
- 安全第一:低血糖予兆(冷汗・手指ふるえ・集中力低下)を見逃さない。疑わしければまず補糖。
2. 出発前:持ち物と準備チェックリスト
必携(機内持込み)
- 処方薬(予備含む)・インスリン・注射針・ペン/ポンプ用品
- ブドウ糖タブレット/ゼリー、低血糖カード
- 血糖測定器/センサー(CGM)・予備電池/充電
- 医師の英文説明書(診断名/薬剤/デバイス)
保管・機内対策
- インスリンは受託NG(凍結リスク)→機内へ
- 冷却ポーチ/保冷材(直冷え接触は避ける)
- タイムテーブル(日本時間・現地時間の併記)
空港/セキュリティ
- 液体/針類の持ち込みは診断書と一緒に提示
- ポンプ/CGMのX線可否は各機種の案内に従う
- “没収”に備え最低限セットを分散携行
3. 時差対応:東回り/西回りの考え方(原則)
※個々の用量は主治医と事前に確認。ここでは考え方と手順のみを示します。
東回り(日本→米国など)
- “1日が短くなる”→基礎インスリンはやや控えめに開始
- 食事タイミングが前倒し→追加(ボーラス)中心に微調整
- 寝不足/脱水で高血糖化しやすい→こまめに水分+短時間歩行
西回り(日本→欧州など)
- “1日が長くなる”→基礎インスリンの抜け時間に注意
- 補うなら少量追加でつなぐ(重複投与は避ける)
- 仮眠で低血糖リスク↑→CGMのアラート設定を高めに
GLP-1系は食欲・胃排出遅延で食事量が変動。比較ハブも参照し、吐き気が続く時は無理せず医師へ。
4. 機内:食事/水分/活動で“乱高下”を防ぐ
- 食事は分割:配膳の炭水化物(パン/ライス/デザート)は半分残す/後半に回す、または おやつに分割。
- 飲料は無糖:水/炭酸水/お茶。アルコールは利尿→脱水/低血糖リスク。
- 食後10分歩行:通路で軽く歩く/カーフレイズ。座位でも足首回し。
- 低血糖の即応:ブドウ糖タブレット→10–15分後に再測定。
- 睡眠前の確認:寝る前に血糖/センサー確認、アラート設定再点検。
5. 到着後3日間の過ごし方(例)
Day 0(到着日)
- 食事は軽め×分割、水分を十分に
- 光を浴びて昼夜リセット、長い昼寝は避ける
- 就寝前はセンサー/低血糖対策物の枕元へ
Day 1–2
- 現地時間の朝食に合わせて徐々に基礎/食事時間を移行
- 会食はタンパク+野菜→主食の順(ベジファースト)
- 移動が多い日は追加インスリン/補食を柔軟に
Day 3
- TIRを見ながら元の設定に近づける
- 持参薬の在庫チェック、帰路の計画を再確認
6. 薬/センサー/注射:よくある実務Tips
7. FAQ:よくある質問(生活実装編)
Q. 機内で低血糖になりやすい?
A. 食事の間隔が空きやすく、飲酒や睡眠で気づきにくくなります。補食を常に携行し、疑わしければまず補糖してから再測定を。
Q. インスリンは受託手荷物で大丈夫?
A. 凍結リスクがあるため機内持込みが基本です。冷却ポーチを活用してください。
Q. どのくらいで現地時間に合わせる?
A. 多くは48–72時間で段階的に。無理な即日移行は乱高下の原因になります。
Q. 会食続きで血糖が乱れます
A. タンパク+野菜→主食の順、糖質は分割。歩けるときに食後10分歩行を。
出張/旅行前の“個別調整”は外来で。日本橋・東京駅・茅場町エリアから好アクセス。
【医療広告ガイドラインに基づく注意】 本コラムは一般情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針は来院時に医師が説明します。緊急時は最寄りの医療機関を受診してください。
👨⚕️ 医師からのコメント・監修

黒田 揮志夫(Kishio Kuroda, MD, PhD)|0th CLINIC 日本橋 院長(病理学/総合診療)
長距離移動では「乱高下を作らない設計」が最優先です。完璧に現地時間へ合わせるより、まずは安全域で“つなぐ”こと。CGMのアラートを活かし、低血糖の予兆を早めに拾ってください。個別の用量調整は来院時に一緒に計画しましょう。