肺動脈弁疾患(比較的まれ)|原因・症状・検査・治療|0th CLINIC 日本橋
息切れ・動悸・むくみ…それ、肺動脈弁疾患(PR/PS)のサインかもしれません
肺動脈弁疾患は、拡張期に肺動脈→右室へ血液が逆流(PR)したり、
収縮期に右室→肺動脈への流出が妨げられる(PS)病気です。
原因は先天性心疾患や術後(RVOTコンジット/ステント内)、肺高血圧、感染性心内膜炎、
変性・石灰化など。進行すると右室拡大・機能低下や右心不全を来します。
治療は内科的管理(体液・基礎疾患の最適化)に加え、状況により
バルーン肺動脈弁形成術(BPV)、経皮的肺動脈弁置換術(TPVR/PPVI)、
外科手術(形成/置換・RVOT再建)を検討します。
⚠️ 急な強い息切れ・失神、急速なむくみ/体重増は救急受診を
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目次
🔍 肺動脈弁疾患(PR/PS)とは
肺動脈弁の異常により、拡張期の右室←肺動脈への逆流(PR)または 収縮期の右室→肺動脈への流出障害(PS)を生じる病態です。背景には 先天性心疾患・術後変化(RVOTコンジット/弁付き導管・ステント内)、肺高血圧、 感染性心内膜炎、変性/石灰化などがあり、進行すると 右室拡大・機能低下や右心不全を来します。

PS:弁口狭小や弁下/弁上部の狭窄で圧負荷が増大。
🩺 主な症状・危険サイン
- 労作時呼吸困難・易疲労: PR/PS共通の症状。
- 動悸・失神傾向: 高度PSや不整脈で出現。
- 下腿浮腫・腹部膨満(腹水): 右心不全のサイン。
- 頸静脈怒張: 体静脈系うっ血の所見。
🧪 検査の流れと重症度指標
- 心エコー(TTE/必要時3D): PSの最高流速(Vmax)・圧較差、弁口・RVOT/主肺動脈径、 PRジェット(jet幅/vena contracta)、右室径・壁厚、 右室機能(TAPSE・TDI S’・FAC)、分枝肺動脈の拡張期逆流を評価。
- 心臓MRI(CMR):右室容積・機能、PRの逆流量/逆流率の定量に有用。
- CT(心臓/肺動脈):RVOT・弁輪・コンジット/ステント径の計測、石灰化や形態の詳細評価(術前プランニング)。
- 右心カテーテル検査:肺動脈圧・右室圧、PSの圧較差評価、デバイス治療前の精査。
- 心電図/胸部X線/BNP・運動負荷:右室負荷、不整脈、心拡大・肺血流、運動耐容能の補助評価。
📊 病型と重症度(基準値)
主な病型
- PR(逆流):先天性/術後、弁尖変性、機能性(肺高血圧)など
- PS(狭窄):弁性・弁下性・弁上性(先天性形態異常、術後再狭窄など)
重症度の目安(代表値)
- PSの重症: 最高流速 Vmax ≥ 4.0 m/s、推定圧較差 ≥ 64 mmHg など。
- PRの重症: 広いvena contracta、主/分枝肺動脈の拡張期逆流、CMRでの高い逆流率などの所見を総合判断。
※ 数値は施設/文献により閾値が異なることがあります。体格や血行動態に配慮し、複数指標で評価します。
💊 治療の考え方(BPV/TPVR/外科/内科)
内科的管理(共通)
- 体液管理: 利尿薬でうっ血を緩和(腎機能・電解質をモニター)。
- 基礎疾患の最適化: 肺高血圧や不整脈の治療、感染性心内膜炎予防(口腔衛生・高リスク時の抗菌薬)。
インターベンション/外科
- バルーン肺動脈弁形成術(BPV):症候性の重症PSで弁形態が適合すれば第一選択。
- 経皮的肺動脈弁置換術(TPVR/PPVI:Melody/Sapien等):重度PR/再狭窄やRVOTコンジット/ステント内再弁置換に有用(解剖・径の適合が前提)。
- 外科的弁形成/置換・RVOT再建:強い石灰化や弁下/弁上病変、他手術併施時、解剖学的不適合例で検討。
🌱 生活の工夫(QOL)
- 塩分・体液管理: 急な体重増加やむくみに注意。
- 運動: 主治医の許可範囲で有酸素中心に。息切れや強い倦怠感時は休止。
- 服薬遵守・定期受診: 腎機能・電解質、右室機能のチェックを継続。
- 口腔ケア: 感染性心内膜炎予防の基本。歯科受診時は心疾患を申告。
🔄 フォローアップと緊急受診
- 再診頻度: 軽症は6–12か月、中等症は6か月前後、重症は3–6か月を目安に心エコー/CMRで再評価。
- 再評価: 症状・体重、心エコー(Vmax/圧較差・PR所見・RVサイズ/機能)、CMRでの右室容積/逆流率、腎機能/電解質。
- ACHD術後: 専門施設での長期フォローを基本に、再介入のタイミングを検討。
🏥 当院でできること(0th CLINIC 日本橋)
- 初期評価: 問診・身体診察、心電図、必要に応じて採血(腎/肝機能・BNP)。
- 画像・機能検査の手配: 提携施設でのTTE/3D、必要時CMR・CT・右心カテーテル。
- 治療方針の検討: 内科(利尿・基礎疾患治療)/介入(BPV/TPVR)/外科(形成・置換)の適応とタイミングを総合判断。
- 専門治療の連携: 小児〜成人先天性(ACHD)を含む専門施設、心臓外科・カテーテルチームと密に連携。
- 介入後フォロー: 心エコー・採血・利尿薬調整、遠隔モニタリング、栄養/リハ支援。
❓ よくある質問(Q&A)
Q:薬だけで治せますか?
薬(利尿薬など)はうっ血の改善が中心で、逆流や狭窄そのものを根治するものではありません。 症状や検査所見によりBPV、TPVR、外科治療を検討します。
Q:無症状なら様子見で大丈夫?
無症状でも右室容積増大・機能低下(CMR)やPS圧較差の進行があれば介入適応になることがあります。 定期的な心エコー/CMRでタイミングを逃さないことが重要です。
Q:BPV・TPVR・手術はどう違いますか?
BPV: バルーンで狭窄弁を拡げる治療(主に弁性PS)。
TPVR: 胸を開けずに弁を入れ替える治療(主に術後RVOTやコンジットに対するPR/再狭窄)。
手術: 形態不適や合併手術同時施行時、再建が必要な場合に実施。
Q:先天性心疾患の術後フォローは?
ファロー四徴症(TOF)術後などでは、CMRで右室容積・逆流率を定期評価し、再介入の適切な時期を検討します。 成人先天性(ACHD)専門施設との連携が重要です。
Q:歯科で注意することは?
口腔衛生の維持が基本です。弁膜症/人工弁/術後など状況により 抗菌薬予防投与が推奨される場合があります。事前に医師へご相談ください。
ほかにも気になる点があれば、ご受診時にお気軽にお尋ねください。
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📚 肺動脈弁疾患(PR/PS)・診断と治療に関する科学的根拠と外部リンク集
🔬 公的機関・国際機関
- American Heart Association:Heart Valve Problems(総論・患者向け/PR/PSの解説を含む)
- NHS:Pulmonary valve stenosis(肺動脈弁狭窄症・患者向け)
- Cleveland Clinic:Pulmonary Regurgitation(肺動脈弁逆流・患者向け)
- Cleveland Clinic:Pulmonary Stenosis(肺動脈弁狭窄・患者向け)
- CDC:Heart Valve Disease(疫学・啓発)
🏛 学会・専門団体ガイドライン
- ESC/EACTS 2021 弁膜症ガイドライン: European Heart Journal(本文)
- ACC/AHA 2018 成人先天性心疾患(ACHD)ガイドライン: Circulation(成人先天性におけるPR/PSとPVR適応)
- ESC 2020 成人先天性心疾患ガイドライン: European Heart Journal(TOF術後のPVR/TPVR適応を含む)
- British Society of Echocardiography(BSE) 2020(三尖弁/肺動脈弁の実践ガイド): Echo Research & Practice(オープンアクセス)
📖 学術レビュー・主要研究
- Circulation 2015:Melody弁(TPVR)術後成績・市販後研究
- JACC 2017:Harmony 自己拡張型TPV(ネイティブRVOT)早期成績
- JACC:CI 2015:COMPASSION(Sapien 系TPVR)中期成績
- EHJ-Imaging 2022:TOF術後のCMR評価とPVRタイミング(レビュー)
- Circulation EP:TOF術後の不整脈リスク層別化(右室拡大・QRS延長)
🇯🇵 日本の公的情報・ガイドライン
🤝 参考:患者支援・生活の質(QOL)
これらのリンクは、 PR/PSの重症度評価(PSのVmax・圧較差/PRのvena contracta・逆流率・分枝肺動脈の拡張期逆流)、 右室容積・機能(CMR)に基づく介入タイミング、 BPV・TPVR/PPVI・外科手術の適応とエビデンス、そして 先天性心疾患(TOF術後など)に特有の再介入判断までを幅広くカバーしています。 実際の方針は症状・右室機能・解剖学的適合性・既往手術/導管の状態・全身リスクを踏まえ、 最新ガイドラインと心臓チームの総合判断に基づき決定されます。
👨⚕️ 医師からのコメント・監修(肺動脈弁疾患:PR/PS)

「肺動脈弁疾患には、拡張期に肺動脈→右室へ逆流する 肺動脈弁逆流(PR)と、収縮期に右室→肺動脈の流出が障害される 肺動脈弁狭窄(PS)が含まれます。成人では、先天性心疾患術後(例:TOF術後の経肺動脈パッチ/RVOT再建・導管)や バルーン弁形成後のPR、先天性弁性/弁下性/弁上性PSが代表的です。 そのほか肺高血圧に伴う機能的PR、感染性心内膜炎や変性/石灰化も原因となります。
主な症状は労作時息切れ・易疲労で、進行すると右室拡大・右心不全により 浮腫・腹部膨満(腹水)・頸静脈怒張が目立つようになります。PSが高度な場合は 動悸・失神傾向がみられることもあります。
診断の中心は心エコーで、PSの最高流速(Vmax)・圧較差、 PRジェット(vena contracta/ジェット幅)、右室径・壁厚、 右室機能(TAPSE・TDI S’・FAC)、分枝肺動脈の拡張期逆流などを総合評価します。 心臓MRI(CMR)は右室容積・機能とPRの逆流量/逆流率の定量に有用で、 介入タイミングの判断材料となります。術前プランニングにはCT(弁輪・RVOT・導管径)、 圧評価には右心カテーテルを併用します。
治療は重症度・症状・右室機能・解剖・既往手術で決定します。 内科的管理として利尿薬による体液管理、肺高血圧や不整脈の最適治療、 感染予防(口腔衛生・高リスク時の抗菌薬)を行います。 PSでは弁性で形態が適合すればバルーン肺動脈弁形成術(BPV)が第一選択となり得ます。 PRでは症候性の重症PRや右室拡大・機能低下が進む場合に 肺動脈弁置換(PVR)を検討し、解剖・径が適合すれば 経皮的肺動脈弁置換(TPVR/PPVI:Melody/Harmony/Sapien等)、 不適合や併施手術が必要な場合は外科的PVR/RVOT再建を選択します。 感染性心内膜炎が疑われる場合は、適切な抗菌薬治療と外科適応の評価が重要です。」
0th CLINICでは初期評価(心電図・必要時Holter)に加え、
提携施設での心エコー(TTE/必要時3D)、CMR、CT、右心カテーテルを手配します。
PSのVmax/圧較差・PRの定量(VC/逆流率)・右室容積/機能・RVOT/弁輪径、既往手術/導管の状態を総合的に確認し、
BPV・TPVR(PPVI)・外科的PVR/RVOT再建の適応とタイミング、あるいは内科的最適化を
心臓チームで検討します。介入後は体液管理・腎肝機能・不整脈/再狭窄を含めてフォローします。
0th CLINIC 日本橋 院長/医学博士/日本病理学会認定 病理専門医/総合診療・救急科での診療歴10年以上
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