アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)(エンレスト)

エンレスト|心不全治療における新たな選択肢|0th CLINIC

💊 エンレストとは(基本情報)

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)(エンレスト)

▲ エンレスト錠(サクビトリルバルサルタンナトリウム塩)

エンレストは、慢性心不全(特にHFrEF:収縮不全型心不全)と、高血圧症(essential hypertension)の治療に用いられる薬剤で、日本では2020年に心不全で承認され、2021年には高血圧症に対しても新たに適応が拡大されました:contentReference[oaicite:1]{index=1}。
ARN I(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)に分類され、心臓のリモデリング抑制や、再入院率・死亡率の低下が臨床試験で示されています。

項目 内容
一般名 サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物
剤形 内服錠(50 mg, 100 mg, 200 mg)
適応症 慢性心不全(左室駆出率低下型)、高血圧症
保険適用 ○(保険診療で処方可能)
特徴 バルサルタン(ARB)とネプリライシン阻害薬(サクビトリル)の併用により、ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制し、降圧効果が持続/安定化します。特に、日本人で行われた臨床試験では、オルメサルタンと比較して200 mg/日投与で24時間持続性の血圧低下が確認され、安全性もARBsと同等とされました。

● 主な副作用には低血圧、高カリウム血症、腎機能低下、咳などがあります。
ACE阻害薬との併用は禁忌で、最低36時間の間隔が必要です。
● 高血圧での初回導入時には、通常200 mgを1日1回、最高400 mgまで増量可。腎機能・電解質・血圧のモニタリングが重要です(心不全適応時とは用量・頻度が異なります):contentReference[oaicite:3]{index=3}。

● また、「Salt‑Conscious(食塩摂取に意識を向ける)降圧療法」として、減塩を推進しながらエンレストを併用することで、より効果的な血圧コントロールが期待できる点も特徴です。

💡 エンレストの作用と使い方

■ 血管拡張+利尿ペプチドの増加(ARNIのしくみ)

エンレストは、ARB(バルサルタン)とネプリライシン阻害薬(サクビトリル)の合剤で、アンジオテンシンIIの作用を抑えつつ、ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制します。
その結果、血管拡張、利尿作用、心臓の負担軽減が得られ、血圧コントロールと心不全の進行抑制が可能です。

■ 心不全だけでなく高血圧にも対応

エンレストは慢性心不全(HFrEF)に加え、高血圧症(本態性高血圧)にも保険適用があります。
日本人対象の臨床試験では、24時間にわたり安定した血圧低下効果が確認されています。

■ 服用方法と注意点

● 通常、心不全では1日2回投与(開始は50mg×2回など)
● 高血圧では200mgを1日1回から開始し、最大400mgまで増量可能
ACE阻害薬使用中の方は切り替えに36時間以上空ける必要があります。
● 腎機能障害や高カリウム血症がある場合は慎重投与または禁忌です。

■ よくある副作用

主な副作用には、低血圧、腎機能悪化、高カリウム血症、咳などがあります。
特に、利尿作用と電解質バランスに注意が必要で、定期的な血液検査が推奨されます。

■ 効果の実感まで:数日~数週間

心不全の症状改善や血圧低下は数日~数週間以内に現れることが多いですが、心機能の改善や再入院予防は数ヵ月単位で評価されます。
食塩制限や体重管理と併せて使用することで、長期的な心血管予後改善が期待されます。

✅ エンレストは心不全の死亡・入院リスクを下げる革新的治療薬として、国内外で注目されています。
自己判断での中止は避け、医師の指導のもとで継続・調整していくことが大切です。

💊 エンレストの適応疾患と使い分け

エンレストは、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)に分類され、RAAS系とナトリウム利尿ペプチド系の両方に働きかける新しい心血管治療薬です。
心不全や高血圧において、血圧低下・心臓の負担軽減・再入院予防などが期待されます。

✅ 主な適応疾患

疾患名 解説
慢性心不全(HFrEF) 駆出率が低下した心不全に対し、再入院率・死亡率の低下が示されています。
高血圧症 RAAS抑制と利尿ペプチド増加による相乗作用で持続的な血圧コントロールが可能です。

✅ 他の降圧薬との使い分け

分類 主な薬剤 使い分けのポイント
ARB バルサルタン など エンレストにも含有。ネプリライシン阻害薬との併用で効果を増強。
ACE阻害薬 エナラプリル など 心不全治療薬として併用されるが、エンレストとの併用は禁忌。
β遮断薬 ビソプロロール など 心不全ではエンレストと併用し、拍動・リモデリングの両面を抑制。
利尿薬 トルバプタン、フロセミド など 水分管理が重要な心不全において、併用で浮腫軽減や体重減少が期待されます。

✅ エンレストが向いている患者

  • 繰り返す心不全再入院を予防したい患者
  • RAAS抑制単独での治療が不十分な方
  • 血圧変動が大きく、安定的な降圧を希望する方
  • ACE阻害薬で咳などの副作用が出た方

エンレストは、心不全治療のスタンダードを変える革新的薬剤です。
血圧コントロールから予後改善まで、幅広く心血管保護に貢献します。

💊 高血圧治療薬の比較(代表的な分類と作用機序)

高血圧治療薬は、患者の状態や合併症に応じて使い分けられます。ここではエンレストを含む代表的な薬剤の分類・作用機序・使い分けポイントを一覧で整理しています。

分類 代表薬剤 作用機序 主な適応・使い分け 副作用・注意点
ARNI エンレスト(サクビトリル+バルサルタン) RAAS抑制+ネプリライシン阻害による利尿ペプチド増加 高血圧+心不全に有効。持続的降圧と心保護に◎ 高K血症、腎機能低下、ACE阻害薬との併用禁忌
ARB オルメサルタン
テルミサルタン
アンジオテンシンⅡ受容体を遮断し血管拡張 腎保護作用あり。糖尿病や心血管リスク高に推奨 高K血症、腎動脈狭窄では慎重投与
ACE阻害薬 エナラプリル
リシノプリル
ACE阻害によりRAAS系を抑制 心不全や蛋白尿のある高血圧患者に有効 空咳、血管浮腫に注意。エンレストと併用不可
Ca拮抗薬(CCB) アムロジピン
ニフェジピン
Caチャネル遮断による血管平滑筋弛緩 高齢者・腎機能低下例・収縮期高血圧に有効 浮腫、動悸、歯肉肥厚など
利尿薬 ヒドロクロロチアジド
フロセミド
Na再吸収抑制により体液量を減少 浮腫・心不全合併例・塩分過多に適応 電解質異常、脱水、腎機能悪化に注意
β遮断薬 ビソプロロール
カルベジロール
交感神経の抑制により心拍数・心拍出量低下 高心拍・不整脈合併例に有効。心保護目的でも使用 徐脈、低血圧、喘息持ちでは注意

エンレストはRAAS抑制と利尿ペプチド増加の二重作用を持つ唯一の降圧薬であり、心不全治療薬としての保険適応もある点が特徴です。
患者の背景(心不全、蛋白尿、高K血症など)を考慮し、他剤との併用や使い分けを行うことが重要です。

■ エンレストのエビデンスと推奨事項

  • HFrEF(駆出率低下型心不全)における心血管死・心不全入院リスク低減が示され、ガイドラインで第一選択薬として推奨されています。
  • RAAS抑制とナトリウム利尿ペプチドの増加による二重作用を持つ唯一の治療薬です。
  • 日本人を含む多国籍試験においても降圧効果と安全性が確認されており、高血圧症への適応も拡大されています。

■ 代表的なエビデンスと出典

✅ エンレストは心不全の新しいスタンダード治療薬として位置づけられ、再入院率・死亡率を有意に低下させることが示されています。
高血圧においても、長時間持続型の降圧作用が期待され、特に心血管リスクの高い患者に有効とされています。

🗣️ エンレストを使用した患者さんの声

心不全で入院した後、医師からすすめられてエンレストを使い始めました。体のむくみが改善し、通院も安心して続けられています。
※これはあくまで個人の感想であり、効果には個人差があります。

血圧が日によってバラバラだったのが、エンレストに変えてから安定するようになりました。副作用もなく、快適に過ごせています。
※これはあくまで個人の感想であり、効果には個人差があります。

❓ よくある質問(FAQ)

通常は1日2回(朝・夕)に分けて服用します。食事の影響を受けにくいので、食前・食後を問わず服用可能です。

思い出した時点で1回分を服用してください。ただし、次の服用時間が近い場合はスキップし、2回分を一度に飲まないようにしてください。

主な副作用には低血圧、めまい、高カリウム血症、腎機能の低下などがあります。
特に血圧や血中カリウム値を定期的にモニタリングすることが重要です。

はい。ただし、ACE阻害薬やアリスキレンとの併用は禁忌です。
利尿薬やβ遮断薬、カルシウム拮抗薬とは併用可能ですが、医師の指導のもと調整が必要です。

いいえ。妊娠中や妊娠の可能性がある場合には使用できません。胎児への影響があるため、服用前に必ず医師へ相談してください。

はい。エンレストは慢性心不全や高血圧に対して長期使用が前提となる薬剤です。
定期的な血液検査と診察を受けながら、安全に継続してください。

💊 エンレスト(サクビトリル/バルサルタン)の特徴まとめ

■ 効果・効能

エンレストは、心不全(慢性心不全)および高血圧症に使用される薬で、
RAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)の抑制ナトリウム利尿ペプチドの分解抑制という2つの作用をあわせ持つ、画期的な治療薬です。

■ おすすめの方

  • ✔️ 高血圧のコントロールが難しい方
  • ✔️ 慢性心不全で従来の治療では改善が乏しい方
  • ✔️ 心臓や腎臓を保護したい方(RAAS系阻害と利尿作用があるため)

■ 注意が必要な方

  • ⚠️ 腎動脈狭窄や高カリウム血症がある方
  • ⚠️ 重度の腎障害・肝障害がある方
  • ⚠️ 脳血管障害の既往がある方
  • ⚠️ 厳しい減塩療法を行っている方(急激な血圧低下の可能性)
  • ⚠️ 血圧が低めの方(定期的なモニタリングが必要)

■ 服用できない方(禁忌)

  • ❌ エンレストの成分に過敏症の既往がある方
  • ❌ ACE阻害薬を現在服用中、または中止後36時間以内の方
  • ❌ 血管浮腫の既往がある方
  • ❌ 糖尿病があり、アリスキレン(ラジレス)を服用している方
  • ❌ 重度の肝機能障害がある方
  • ❌ 妊娠中または妊娠の可能性がある女性

■ 主な副作用

比較的よくある副作用:

  • ・めまい、起立性低血圧
  • ・咳、疲労感

重大な副作用(まれですが注意が必要):

  • 血管浮腫(顔・舌・喉の腫れ、呼吸困難)
  • 高カリウム血症(手足のしびれ、筋力低下)
  • 腎機能障害・腎不全
  • 間質性肺炎、肝炎、横紋筋融解症、ショック など

■ 他のお薬との併用について

  • ・ACE阻害薬とは併用禁忌。服用中止後36時間以上あけてから開始します。
  • ・アリスキレンとの併用は、糖尿病のある方では禁忌
  • NSAIDs(解熱鎮痛薬)との併用は、腎機能悪化のリスクがあるため注意。
  • カリウム製剤やカリウム保持性利尿薬との併用で高カリウム血症のリスクが上昇することがあります。
  • ・他の降圧薬(CCB、利尿薬)とは併用可能ですが血圧低下に注意

■ 食事・生活上の注意

  • 塩分の過剰摂取は避ける(治療効果を妨げます)
  • カリウムを多く含む食品(バナナ、ほうれん草、豆類など)の過剰摂取には注意
  • 定期的な体重測定・血圧測定を行い、日々の体調をチェック
  • ・脱水を避けるため、適度な水分補給も大切です(医師の指示に従って)

✅ 体調の変化(むくみ、息苦しさ、意識の低下など)を感じた場合は、早めに医療機関を受診してください。
エンレストは心不全の進行を抑える重要な薬ですが、医師の指導のもと、安全に服用することが大切です。

💰 エンレスト(サクビトリル/バルサルタン)の薬価と自己負担について

エンレストは心不全や高血圧の治療に用いられる新規作用機序の薬剤であり、RAAS抑制+ナトリウム利尿ペプチド分解抑制という2つの作用を併せ持ちます。
以下に各製剤の薬価と、3割負担時の1か月分(30日)での自己負担額の目安を示します。

■ 保険診療での薬価(2024年改定時点)

製剤名 薬価(単価) 服用量(1ヶ月) 薬剤費(3割負担)
エンレスト錠50mg 60.9円/錠 60錠(1日2回) 約1,096円
エンレスト錠100mg 106.9円/錠 60錠(1日2回) 約1,924円
エンレスト錠200mg 188.2円/錠 60錠(1日2回) 約3,388円
エンレスト粒状錠 小児用12.5mg 21.4円/個 60個 約385円
エンレスト粒状錠 小児用31.25mg 43.2円/個 60個 約777円

■ 自己負担の目安(30日分・1日2回の場合)

  • エンレスト錠200mg: 3割 → 約3,388円 / 1割 → 約1,129円
  • エンレスト錠100mg: 3割 → 約1,924円 / 1割 → 約641円
  • エンレスト錠50mg: 3割 → 約1,096円 / 1割 → 約365円
  • ● ※ 診察料・検査費・薬局調剤料などは別途かかります

✅ エンレストは心不全に対する新たな選択肢として重要な役割を果たします。
高価ではありますが、症状の改善や入院リスクの低下が期待できる薬です。費用と効果のバランスを考慮し、主治医と相談の上で使用を検討しましょう。

👨‍⚕️ 医師からのコメント・監修

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)(エンレスト)
エンレストは従来のRAAS抑制薬に加え、心不全治療に革新をもたらした画期的な薬剤です。
ナトリウム利尿ペプチドの分解抑制という新たな作用により、心不全の進行抑制と予後改善が期待できます。
とくに、ACE阻害薬やARBでは効果が不十分だった患者さんにおいて、新たな選択肢となります。」

当院では、心不全の病態や血圧、腎機能などを多角的に評価し、安全に導入できるタイミングを見極めたうえで処方を検討しています。
高血圧を合併している方にも適応があり、血圧の管理と心不全の治療を同時に行える点が大きな利点です。
服薬中は、電解質異常や腎機能の変化に注意しながら、定期的なモニタリングを行います。

監修:黒田揮志夫 医師(病理専門医/総合診療医)
0th CLINIC 日本橋 院長
日本病理学会認定 病理専門医/心不全・高血圧管理の外来経験10年以上
ご予約はこちらから

関連コラム

    ただいま準備中です。少々お待ちください。