糖尿病腎症(慢性腎臓病)|早期発見と腎保護で“進行をゆっくり”に

糖尿病腎症(慢性腎臓病)|早期発見と腎保護で“進行をゆっくり”に

初期は自覚症状に乏しい合併症です。定期スクリーニング(尿アルブミン・eGFR)血糖・血圧・脂質の最適化、必要に応じてACE阻害薬/ARB・SGLT2阻害薬・選択的MRA・GLP-1受容体作動薬などを組み合わせ、 腎機能を長く守ります。

糖尿病腎症とは

長期の高血糖や高血圧・脂質異常・喫煙などで腎臓の糸球体が傷み、アルブミン尿の持続eGFR低下が進む病態です。初期は無症状でも、進行するとむくみ・息切れ・高血圧・貧血などが現れます。 早期に見つけ、適切に守ることで透析・心血管イベントのリスクを下げられます。

こんな時はすぐ受診(腎臓内科・救急へ)

  • 急なむくみ・体重増加・息切れ、尿量の著明な減少
  • 高カリウム疑い(筋力低下・しびれ・脈の乱れ・胸部不快)
  • 発熱・背部痛・排尿時痛(腎盂腎炎の可能性)
  • 著明な高血圧(頭痛・吐き気・視覚異常)

受診時は服薬リスト・家庭血圧・最近の採血/尿の結果をご持参ください。迷ったら早めにご連絡を。

スクリーニングのスケジュール(初回のタイミングと頻度)

対象初回の目安その後の目安
2型糖尿病診断時に尿アルブミン/Cr比(uACR)eGFR年1回(所見ありは頻回)
1型糖尿病発症5年以内に初回評価以後は年1回(所見に応じ短縮)
妊娠予定/妊娠中妊娠前〜初期に評価妊娠中は状況に応じ追加フォロー

アルブミン尿は3〜6か月以内に2/3回以上陽性で「持続」とみなします(運動・発熱・尿路感染で一過性上昇に注意)。

分類(G×A:eGFR × アルブミン尿)

eGFR区分範囲 (mL/min/1.73m²)アルブミン尿区分uACR (mg/gCr)
G1≥ 90A1(正常〜軽度)< 30
G260–89A2(中等度増加)30–299
G3a45–59A3(高度増加)≥ 300
G3b30–44A区分は上記に準ずる
G415–29腎専門医連携・療養計画を強化
G5< 15腎代替療法の準備(血液/腹膜透析・移植)

検査(何を見ている?)

  • uACR(尿アルブミン/クレアチニン比):腎障害の早期指標。反復測定で持続性を確認。
  • eGFR:腎機能の全体指標。トレンド(推移)が大切。
  • 血液・尿検査:K/Na/HCO3、尿沈渣、HbA1c、脂質、貧血・骨代謝(鉄、Ca/P、PTH)など。
  • 画像・その他:腎超音波(サイズ・形態)、必要時は専門医と追加検査を検討。

治療(薬物・非薬物を組み合わせ)

  • RAAS阻害(ACE阻害薬/ARB)A2/A3のアルブミン尿で第一選択。Cr/Kを見ながら漸増(ACEiとARBの併用は避ける)。
  • SGLT2阻害薬:腎・心不全リスクの低減。eGFRに応じて導入し、初期のeGFR軽度低下は想定内。
  • 選択的MRA(例:フィネレノン)ACEi/ARB+SGLT2後もアルブミン尿が持続する際に検討(血清Kを定期チェック)。
  • GLP-1受容体作動薬:体重・血糖・動脈硬化リスクの包括的低減に。
  • 血圧・脂質管理:個別化したBP目標(多くは130/80 mmHg前後)、スタチン中心にASCVDリスクを低減。
  • 利尿薬・減塩:浮腫・高血圧をコントロール(食塩6 g/日未満を目安に個別化)。
  • 薬剤見直し:NSAIDs常用回避、造影検査時の予防策、腎機能に応じた用量調整(メトホルミン/DPP-4等)。
  • 合併症対応:腎性貧血や骨ミネラル代謝異常は腎専門医と連携して治療。

治療の最適解はG×A分類・合併症・生活状況で変わります。定期的に見直し、過不足なく続けることが大切です。

進行を抑える全身管理(とても大事)

  • 血糖:HbA1c目標は個別化(多くは7%前後)。低血糖リスク・合併症で調整。
  • 血圧:家庭血圧も活用し、過度な厳格化は回避。
  • 脂質:スタチンを基本に必要時追加。
  • 禁煙・運動・睡眠:血管保護のベース。

妊娠と腎症(薬剤の注意)

  • ACEi/ARB・MRA・SGLT2など、妊娠に適さない薬剤があります。妊娠を考える時は事前に処方を見直しましょう。
  • 妊娠中は血圧・血糖の安全第一で、産科・腎臓・糖尿病チームと連携します。

生活・セルフケア(続けやすく)

  • 食事減塩を軸に、たんぱく質は適正量(過不足なく、管理栄養士と個別化)。
  • 運動:週150分の有酸素+週2回の筋力。貧血・浮腫・高Kがある時は内容を調整。
  • シックデイ:脱水予防・薬剤の一時調整(SGLT2/利尿薬など)は指示に従って。
  • 禁煙・節酒:腎・心血管の保護に直結します。

フォロー間隔の目安(個別条件で前後します)

状態目安主なチェック
A1・G1–G2年1回uACR、eGFR、血圧、脂質、生活習慣
A2 または G3a3〜6か月uACR、eGFR、K/Na、HbA1c、薬剤調整
G3b 以上 または A31〜3か月+腎専門医連携上記+貧血、酸塩基、浮腫、合併症

よくある質問

いつから検査を始めれば良い?
2型は診断時、1型は発症5年以内にuACRとeGFRを評価し、その後は年1回(所見に応じ短縮)。
ACE/ARBとSGLT2は併用できますか?
多くの方で併用が標準です。Kや腎機能を見ながら安全に継続します。
たんぱく質は制限が必要?
過不足のない適正量が基本です。病期や栄養状態により管理栄養士と個別に調整します。

💊 糖尿病治療薬の種類と特徴

糖尿病治療では、血糖値を下げるための薬を使うことがあります。
病態や合併症の有無に応じて、内服薬や注射薬を適切に組み合わせて治療します。

🔷 主な内服薬(経口血糖降下薬)

  • ビグアナイド薬(メトホルミンなど)
    ─ 肝臓での糖の産生を抑える。体重が気になる方にも適応されます。
  • SGLT2阻害薬
    ─ 尿から糖を排出する薬。体重減少や血圧改善も期待されます。
  • DPP-4阻害薬
    ─ 食後のインスリン分泌を助ける薬。低血糖を起こしにくいのが特徴です。
  • スルホニル尿素薬(SU薬)
    ─ インスリン分泌を促進する薬。やや低血糖を起こしやすいので注意。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
    ─ 糖の吸収をゆっくりにすることで、食後高血糖を抑えます。

💉 注射薬(インスリン・GLP-1受容体作動薬)

  • インスリン製剤
    ─ 血糖値を直接下げるホルモンを補う薬。1型糖尿病や重症の2型糖尿病で使用。
  • GLP-1受容体作動薬
    ─ インスリン分泌を促進し、食欲を抑える注射薬。週1回の製剤もあり、肥満のある方にも有効です。

📋 副作用や注意点

  • 低血糖(特にSU薬・インスリン使用中)
  • 吐き気・食欲不振(GLP-1受容体作動薬)
  • 尿路感染症・脱水(SGLT2阻害薬)
  • 腎機能や肝機能の状態により、使用できない薬もあります

🏥 通院・血液検査が大切です

糖尿病は「症状が出にくい」慢性疾患です。
自己判断で薬を中断せず、定期的に診察・HbA1cや腎機能の検査を受けて、合併症を予防しましょう。

💊 糖尿病治療薬の種類と特徴

糖尿病の治療薬は多岐にわたります。以下は、日本国内で使用される代表的な薬剤とその特徴をまとめたものです。

🟢 経口血糖降下薬(内服薬)

① ビグアナイド薬(Biguanides)

② スルホニル尿素薬(SU薬)

③ 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系)

④ α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)

⑤ チアゾリジン薬(TZD)

⑥ DPP-4阻害薬

⑦ SGLT2阻害薬

💉 注射薬(インスリン・GLP-1受容体作動薬)

① GLP-1受容体作動薬

② インスリン製剤(分類別)

それぞれの薬剤は、患者さんの体質・合併症・ライフスタイルに応じて選択されます。
詳しくは医師にご相談ください。

GLP-1受容体作動薬の作用メカニズム

糖尿病腎症(慢性腎臓病)|早期発見と腎保護で“進行をゆっくり”に

GLP-1受容体作動薬は、インスリン分泌促進食欲抑制胃の排出遅延などの作用を通じて血糖値をコントロールします。
また、体重減少効果もあることから、2型糖尿病や肥満治療にも用いられます。

こんな方はご相談ください

  • のどが渇く、水をたくさん飲む
  • 尿の量や回数が増えた
  • 食欲があるのに体重が減る
  • 疲れやすい、だるい
  • 手足のしびれ
  • ケガが治りにくい
  • 健康診断で血糖値やHbA1cが高いと言われた

症状から探す

糖尿病腎症(慢性腎臓病):エビデンス&ガイドライン・実務

糖尿病腎症はアルブミン尿の持続eGFR低下を特徴とする合併症です。早期の拾い上げと、 全身管理(血糖・血圧・脂質・禁煙)に加えて腎保護薬(ACE阻害薬/ARB、SGLT2阻害薬、選択的MRAなど)を適切に組み合わせることで、 進行を大きく遅らせることができます。効果は数週〜数か月かけて現れることが多く、定期モニタリングが鍵です。

🏛 学会・専門ガイドライン(標準の考え方)

  • KDIGO CKD/Diabetes:CKDのG(eGFR)×A(アルブミン尿)分類に基づくリスク層別と治療。
  • ADA Standards of Care:スクリーニング頻度、血糖・血圧目標、腎保護薬の推奨。
  • 国内関連学会:日本糖尿病学会/日本腎臓学会の推奨や連携体制。

🔍 スクリーニング(初回のタイミングと頻度)

対象初回の目安その後の目安
2型糖尿病診断時に尿アルブミン/Cr比(uACR)eGFR年1回(所見ありは頻回)
1型糖尿病発症5年以内に初回以後は年1回(所見により短縮)
妊娠予定/妊娠中妊娠前〜初期に評価妊娠中は状況に応じて追加フォロー

アルブミン尿は3〜6か月以内に2/3回以上で陽性なら「持続」とみなします(運動・発熱・尿路感染で一過性上昇に注意)。

🗂 診断と分類:G(eGFR)×A(アルブミン尿)

eGFR区分範囲 (mL/min/1.73m²)アルブミン尿区分uACR (mg/gCr)
G1≥ 90A1(正常〜軽度)< 30
G260–89A2(中等度増加)30–299
G3a45–59A3(高度増加)≥ 300
G3b30–44A区分は上記に準ずる
G415–29腎専門医連携・療養計画
G5< 15腎代替療法の準備(血液/腹膜透析・移植)

🎯 目標とモニタリング

  • 血圧:個別化しつつ130/80 mmHg前後を目安(高齢・動脈硬化で過度な厳格化は回避)。家庭血圧も活用。
  • 血糖:HbA1c目標は個別化(多くは7%前後)。低血糖リスク・合併症で調整。
  • 脂質:スタチン中心に心血管リスク低減。
  • 検査頻度:uACR・eGFR・K・Na・HCO3・尿検(沈渣)を3〜12か月ごと(重症ほど短く)。

💊 治療の全体像(腎保護と合併症対策)

  • RAAS阻害(ACEi/ARB)A2/A3のアルブミン尿で第一選択。K/Crを見ながら漸増(ACEiとARBの併用は避ける)。
  • SGLT2阻害薬:腎・心不全リスクの低減に有用。eGFRに応じて開始/継続可否を判断(導入初期のeGFR一過性低下は想定内)。
  • 選択的MRA(例:フィネレノン)ACEi/ARB+SGLT2後もアルブミン尿が持続する場合に検討(血清Kを定期チェック)。
  • GLP-1受容体作動薬:体重・血糖・心血管リスク低減に寄与。腎機能や併用薬に合わせて選択。
  • 利尿薬・減塩:浮腫・高血圧のコントロールを強化(食塩6 g/日未満を目安に個別化)。
  • 貧血・骨ミネラル代謝:鉄欠乏の是正、必要に応じESAや活性型ビタミンDなどを腎専門医と連携。
  • 薬剤見直し:NSAIDsの常用回避、造影検査前後の調整、腎機能に応じた用量調整(メトホルミン・DPP-4等)。

🌿 生活とセルフケア(続けやすく)

  • 食事減塩を軸に、たんぱく質は適正量(過不足なく、主治医と相談して個別化)。
  • 運動:週150分の有酸素+週2回の筋力。貧血・浮腫・高Kがある場合は内容を調整。
  • 禁煙・睡眠:血管保護に直結。睡眠時無呼吸が疑わしい場合は評価を。
  • 脱水/感染の回避:シックデイ時は水分・電解質、薬剤(SGLT2、利尿薬など)の一時調整を指示に沿って。
🚑 緊急性・来院前対応(患者さん・ご家族向け)
  • 急なむくみ・息切れ、尿量の著明な減少、体重の短期間での増加 → 早めに受診
  • 高カリウム疑い(筋力低下・しびれ・脈が乱れる/胸部不快)→ 救急へ
  • 発熱・背部痛・排尿時痛(腎盂腎炎疑い)→ 受診
  • 著明な高血圧(頭痛・吐き気・視覚異常)→ 救急評価

受診時は服薬リスト・家庭血圧・最近の検査結果をお持ちください。

📈 改善にかかる期間・予後の目安

  • アルブミン尿:治療開始後数週〜数か月で段階的に低下が期待(再評価は3か月前後を目安)。
  • eGFR:SGLT2導入初期に軽度低下しても、その後は安定化/進行抑制が期待されます。
  • 長期予後:血糖・血圧・脂質の最適化と腎保護薬の継続で、末期腎不全・心血管イベントのリスク低下が見込めます。

🗓 フォロー間隔の目安(個別条件で前後します)

状態目安主なチェック項目
A1・G1–G2年1回uACR、eGFR、血圧、脂質、生活習慣
A2 または G3a3〜6か月uACR、eGFR、K/Na、HbA1c、薬剤調整
G3b 以上 または A31〜3か月+腎専門医連携上記+貧血、酸塩基、浮腫、合併症

🤰 妊娠を考える方へ(薬剤の注意)

  • ACEi/ARB、MRA、SGLT2などは妊娠中に適さない薬剤を含みます。妊娠前から計画的に見直しましょう。
  • 妊娠中は血圧・血糖の安全第一で、産科・腎臓・糖尿病チームと連携します。
まとめ: 糖尿病腎症は早期発見腎保護薬+全身管理の継続が要。 G×A分類でリスクを見える化し、減塩・血圧/血糖最適化・喫煙ゼロをベースに、SGLT2・ACEi/ARB・選択的MRA・GLP-1 RAなどを 個別に組み合わせて腎機能と心血管リスクを守りましょう。

関連コラム

    ただいま準備中です。少々お待ちください。